世の中には一度見たら忘れられない人がいます。またたくさんの人の中でもすぐに目に付く人がいます。なぜでしょう。カリスマを持つ人、カリスマを持たない人の差はどこにあるのでしょう。
カリスマとは、もともとはギリシア語で一般大衆の支持や後援を集める精神力のことです。
 オバマは強烈なカリスマを持っています。でも生まれた時からカリスマを持っていたわけではないでしょう。オバマはどうやってカリスマ性を身につけたのでしょうか。それを探ればカリスマを持つ人、カリスマを持たない人の差がどこにあるのか分かるに違いありません。

多様性は最大の武器

My father was a foreign student, born and raised in a small village in Kenya.
「父は留学生で、ケニアの小さな村で生まれ育ちました」

While studying here, my father met my mother. She was born in a town on the other side of the world, in Kansas.

「ここアメリカで勉強していた父は母に出会いました。母は世界のもう一方の端のカンザス生まれです」

 オバマは心の中にさまざまな価値観を詰め込んでいる人物です。
母のアンは中流階級の白人で父のバラクはケニアからの黒人留学生です。アンが18才、バラクが23歳の時に二人はハワイ大学で出会い、そして結婚。いわゆる「できちゃった結婚」でした。当時多くの州では、まだ白人と黒人の結婚は違法で、偏見にさらされることも珍しくありませんでした。
 父は幼いオバマと妻をハワイに残してハーバードの大学院に進学、最終的には離婚。オバマ少年が次に父に会ったのは10才の時です。それが実の父との最後の別れとなりました。
 母は離婚後、バラクと同じくハワイ大学で出会ったインドネシア人のロロと再婚、オバマを伴ってインドネシアに移住しました。オバマは義理の父となったロロからインドネシアの習慣やイスラムの伝統などたくさんのことを学びました。
 このように多くの異なる背景を持つ家族に囲まれ価値観を形成しています。これは非常に貴重な経験です。
 自分は何者なのか。自分はどうあるべきなのか。たくさんの価値観に触れて育ったオバマは人一倍悩んでいます。
 自分が何者なのか問い直す心の旅をすることは、他者を知ることでもあります。まさにごく当たり前に見える自分と他者との関係を再認識することです。当たり前だと思っていたことを本当は当たり前ではないと認識することは意識の革命です。そうなると今まで偏見に隠れて見えなかったものが見えてきます。
 多様性(ダイバーシティ)は偏見を取り払う鍵です。そして多様性は共感力をもたらします。
 共感力は人々がどのような不満を持っているか知る力です。苦しみを誰かに分かって欲しいと願う人々の気持ちを察知する資質です。
 オバマが尊敬するフランクリン・ルーズベルト大統領は、裕福な家庭で何不自由なく育ったエリート中のエリートでした。しかし、小児麻痺を患ってほぼ下半身不随になり、ルーズベルトは恵まれない人々に共感する心を得ました。それは大恐慌に打ちひしがれる国民を勇気づけるルーズベルトの原点になりました。
 オバマは多くの人々の声なき声を代弁しています。それは聴衆の意識を変化させました。一人一人の聴衆がそれぞれの心の中で、それが言いたかったんだよ、まさにそうだよと快哉を叫ぶでしょう。
 オバマの声は、オバマだけの声ではなく、聴衆自らの心の声、さらには多くの人々の声なき声を代弁する巨大なうねりと化したのです。
 オバマが有するカリスマの秘訣は、多様性から共感力を引き出すことにあります。

カリスマは本当に必要か

 一方でビジネスの世界では、カリスマが本当に必要なのか疑問視する考え方があります。なぜなら、カリスマの存在はすごいことなのですが、いつか来るカリスマが去った後にカリスマが存在していたときと同じ状態が維持できるのか、という大きな問題があるからです。
 仮に一人の起業家がカリスマだったとします。強烈な個性と誰も付いていけないほどの高い意欲を発揮し、寝食を忘れて働きに働き短期間で事業を大成功に導きました。しかし、ある日このカリスマが引退することになりましたが、事業を引き継いでうまく経営できる人が見当たりません。それでも、カリスマは去っていてしまいました。すると、この事業はどうなったかというと、成功した期間の半分の期間でなくなってしまいました。
 ということは、カリスマは事業のスタート時では絶対に必要な存在なのですが、まず一人ではどんなに事業を大きくしたといっても、せいぜい数億円レベルです。最初に必要なのはカリスマをサポートし、一緒に事業を成長させることのできる仲間なのです。
 より多くの仲間を集めることができれば、その人数と資質によって事業の規模は、数十億から数百億へと拡大させることができます。次に、自分がいなくなった後も事業が継続できるよう、次のカリスマを育てることです。継続しない事業は利己的で、長く使っていきたいというユーザーを裏切ることにもなります。
 つまり、カリスマは自分がカリスマとして君臨することよりも、カリスマを支えるしくみ、次のカリスマを育てるしくみ、そしてそのしくみを継続させるしくみを作ることが最も大切な役割なのです。そう考えると、実はカリスマよりもしくみが大事であり、君臨することに固執するカリスマは本当に必要なのかという考え方につながるのです。
 カリスマが出現したら、側近に自分よりも優秀な人材を配置するか、そこをしっかりと見極めなければなりません。

聴衆と自分の物語を紡ぐ

 カリスマを有する人は必ず独自の物語を持っています。
 もちろん独自の物語といっても自慢話ではありません。できるだけ多くの人々に自分がどのような人物なのか伝える物語です。
 人々が本当に知りたがっているのは考え方や意見だけではなく、その背後にある「人となり」です。
 カリスマを持つ人は、幼い時に感じた甘酸っぱい思いや青春時代の言い知れぬ焦燥、時折訪れる耐え難い孤独感などを語るのです。さも親しい仲の人に打ち明け話をするかのように。
 自分の心の中を聴衆にオープンにすること。しかし、何でもオープンにすればよいというわけではありません。オープンにしながらも、何をオープンにすればよいのか、何をオープンにしてはならないのか、慎重に見極めるセルフコントロールも必要です。オープンにするにはよりセルフコントロールが重要になります。
 さらに大事なことは物語の展開の仕方です。自らの考え方や意見を述べる時にそれにあわせた物語を効果的に組み込むべきです。
 オバマは、特に人種問題に関して自分の物語を効果的に駆使しました。自分の経験を通じて自らの人種問題に関する考え方を語っています。
 例えばオバマはテレビ番組の中で「3、4年前までは、レストランの前で自分の車を待っていると、(配車係と間違えて)私に車のキーを渡そうとする人がたくさんいた」と語っています。
 人種的な偏見や職業の機会不均等がまだあることを端的に示す逸話です。これを聞いて黒人は自分も同じような扱いを受けた経験があると思うかもしれませんし、白人の中には黒人に対して同じような扱いをしたと思うかもしれません。
 人種的な偏見や職業の機会不均等があるとはっきり言うよりもこれは人々の共感を得る強力な言葉です。こうしたウィットに富んだ物語は適切な状況で使えば有効な武器になります。
 ここで忘れてはならないことは自分の物語だけではなく、多くの人々の物語をも援用することです。なぜなら声なき多くの人々の声を代弁するという役割を果たさなければならないからです。
 演説の中でオバマは、集会にやってきた105歳になる黒人のおばあさんの話をしています。おばあさんの人生を通じてまるで自分が見てきたかのようにアメリカの歴史を語りました。こうした物語を使う手法は、人々の一体感を高めます。
 聴衆は、105歳のおばあさんを自分の祖母や曾祖母に重ねて自らの国の歴史を追体験できます。オバマの声を通じて人々は自分たちの歴史を体験し一体となるのです。
 聴衆が一体となれる物語を紡ぐことがオバマのカリスマの秘訣です。

新しい価値観を創造する

 アメリカで最も重要な価値観は「自由」です。
 今からおよそ230年前、アメリカは旧世界の束縛から逃れる自由の新天地として誕生しました。それ以後、真の自由を常に探究してきたのがアメリカの歴史だといえます。
 独立革命の時代に多くのアメリカ人たちの魂を揺さぶった「自由か、さもなくば死か」という政治家のパトリック・ヘンリーの言葉はアメリカの中核をなす精神を表しています。
 自由とは何でしょうか。この問いにすべての人が納得できる答えを出せる人はいません。
 しかし、アメリカは第二次世界大戦を「自由の灯をファシズムの脅威から救う戦いだ」と宣伝しました。自由という共通の大義の下、アメリカ国民は一致団結したのです。
 さらに冷戦では、共産主義に対抗して、アメリカは自由の国だから絶対的な正義なのだという考え方が広められました。
 しかし、ベトナム戦争の敗退によってアメリカの威信は大きく失墜しました。自由の国アメリカは絶対的正義なのかと国民は疑念を抱くようになったのです。
 冷戦が終わり、アメリカは対抗すべき相手を失いました。さらに9・11により今まで当たり前だと思っていたものが根底より覆されました。
 アメリカは世界中からの移民を受け入れてきたため、非常に多種多様な人々からなる国です。へたをしたらアメリカはばらばらになってしまうかもしれません。そうした人々をまとめる理念が必要です。
 それが普遍的自由です。自由の国アメリカに住むアメリカ国民すべてが信奉する自由です。しかし、今、アメリカでは普遍的自由が失われています。
 妊婦が中絶を選択する自由と胎児の生命を擁護する自由。動物愛護を推進する自由と動物実験を行う自由。同性愛を認める自由と異性愛だけ認める自由。ばらばらな自由がアメリカで大きく渦巻いています。
 特に中絶問題は、現在、妊婦が中絶を選択する自由があると主張するプロ・チョイス派と胎児の生命を擁護する自由があると主張するプロ・ライフ派が激しく対立しています。
 従来、中絶問題は各州の判断にゆだねられてきましたが、60年代後半から70年代にかけてプロ・チョイス派とプロ・ライフ派の全米組織が結成されて以降、対立がますます深刻になりました。
 中絶は信仰に関わる問題です。アメリカ人の大半は我々日本人が思う以上に信仰を重視しています。
 さらに中絶を法律で禁止するかどうかは、政府がどの程度まで個人の自由を規制できるのかという問題を含んでいます。そのため中絶は政治問題でもあるのです。
 アメリカの政治家にとって中絶問題はまさに現代の踏み絵かもしれません。
 オバマはプロ・チョイス派を支持していますが、道徳は重視すべきだと表明しています。
 このように本来、アメリカ国民がアメリカ国民たる共通の基盤だった自由が、アメリカ国民の間に分断を生み出しつつあります。アメリカは新たな普遍的価値観を創造しなければなりません。
 多様性を自らの心の中にも持つオバマに、多くの人々が新たなる普遍的価値観を創造する役割を求めています。
 「またアメリカが自分たちのものになったような気がします」 
 これは、1933年にフランクリン・ルーズベルトが初めて大統領選に勝利した時に、その知らせを聞いた女性が言った言葉です。
 これと同様にオバマは、ごく普通の人たちの手に再びアメリカを取り戻すことを国民に呼びかけています。
 オバマ支持者にとって、オバマは失われた共通の絆を取り戻し、新たなる契約の下、分裂したアメリカを再生する可能性を秘めた存在なのです。そうした人々の思いがオバマにエネルギーを与えているのです。
 バラバラになってしまった人々を再統合する新しい価値観を創造することが、オバマのカリスマの秘訣です。

とどまることを知らぬ進取性
「多様性と企業統治のバランス」をリライトして、まるまるつなげます。

 オバマはアメリカン・ドリームを象徴する人物です。
 明日はきっと今日よりもよくなる。そして、明後日は明日よりももっと素晴らしいものに違いない。だから恐れず前に進もう。
 オバマがアメリカン・ドリームを我が物としたのはこうした進取性があるからです。しかも特に恵まれた家庭に生まれたわけでもなく、青春期にごく普通の人が持つ悩みを同じく持ちながらも大成したのです。
 オバマが成功することは、現代でもアメリカン・ドリームが達成できるという実証です。もしかしたら自分も何かできるかもしれないという希望の源になります。オバマが成功する姿は、将来の自分が成功する姿でもあるのです。
 何かを変える。変えようと思えば本当に変えられるはずだという理想がオバマにはあります。しかし、日常生活に埋没している人々は、何を変える必要があるのか知りません。またオバマが何を変えようとしているのか、すべてを知ることは誰にもできません。
 しかし、オバマが何かを変えようとしていることはすべての人が知っています。そうしたイメージも大切です。人は他人を完全に理解できるわけではありません。何となくイメージで他人を判断します。
 オバマは何かを変えようとしている。多くの人々がそう感じることが重要なのです。「心に決めればどんなことでも私たちアメリカ人はできるんだと教えてくれた」と祖父が教えてくれたとオバマは語っています。これはオバマの進取性を示しています。オバマにとってはそれこそがアメリカの精神そのものなのです。
 オバマは人々が求めるイメージを敏感に察知しています。アメリカ国民が政治に閉塞を感じ、何か新しい道を求めているのを肌で感じ取っています。
 オバマは経験が少ないことをかえってプラスに転じています。中央政界での経歴がまだ浅いことは、それだけ従来の政治には無縁だということです。
 経験の代わりにオバマは可能性を示しました。従来の政治とは違う新しい形の政治をオバマは提示しようとしています。それは可能性が持つ力です。
 オバマの若さや経験の少なさは問題ありません。
 経験が豊富なことは良いことですが、しばしば自らの成功体験は新しいことを試してみようというチャレンジ精神を委縮させます。
 今、多くの人々が必要としているのはチャレンジ精神です。もう従来の発想では解決不能のように思える社会問題を解決できる斬新性が求められています。
 革新主義か保守主義か、または中道主義かではなく、良識ある解決策をオバマは提唱しています。オバマはレッテルを貼られることを拒否し、主義の束縛から逃れ、従来ある道をたどるのではなく、新しい道を切り開こうとしています。それを多くの人々が望んでいることをオバマは知っています。
 とどまるところを知らぬ進取性で、きっと何かがかわるという高揚感を人々に与えることがオバマのカリスマの秘訣です。

多様性と企業統治のバランス
位置変更ですが、リライトしてまるまる「とどまることを知らぬ進取性」につなげます。

 オバマが発揮するカリスマ性は企業経営者にとっても羨望の力です。自らも失敗を経験し、そこから這い上がり、アメリカン・ドリームを掴んだ一人の男としての人間味溢れる物語を通じて、先を読み、自信を抱かせ、何かを変えようと感じさせる力があります。そして、そのとおりに自ら突き進む力に人々を巻き込んでいく姿に輝きを感じるはずです。
 今日の企業において、社員はおろか、企業を取り巻く環境は多様性を極めています。社員の就業形態にしても、正社員、契約社員、派遣社員、アルバイトなど個人のライフスタイルと価値観で多くの選択ができます。不得意分野の業務はアウトソーシング先があり、さらに業務提携も単なるコラボレーションやアライアンスから資本関係も交えた買収までいくつもの取り組みができます。他にも金融機関や弁護士、会計士まで多様な関係を構築する相手は増えるばかりです。
 それでも、企業組織をまとめ上げ、株主からせっつかれるまでもなく業績拡大を常に狙わなくてはならない経営者にとってどのようにすればオバマのように、意志を明確に伝え、人々を熱狂とともに目標に向けて動かすことができるのか?しかも、アメリカは人種差があり、地域差がある国です。企業とは比べ物にならない多様な価値観が渦巻く中で実現するにはどうしたらいいのか?経営者が悩んでいることです。
 この先に進めば夢と希望が待っている。こう思わせることができるカリスマ性は、人々が人間オバマに惹かれていくことが原因であると経営者に気付きを与えるでしょう。


諦めを勇気に変える力

 誰しも失敗することがあります。オバマも例外ではありません。人は失敗して学んでいくものです。ただ失敗して諦めるのと失敗した経験を次のチャンスに活かすのとでは全然違います。
 なぜ失敗したのか。そしてまた失敗しないようにするためにはどうすればよいのか。オバマは考える力がありました。
 オバマが政治家を目指す転機となったのはコミュニティ・オーガナイザーという仕事です。コミュニティ・オーガナイザーは、地域の問題を解決するために住民を組織して行動を起こす仕事です。
 24歳から27歳までオバマは貧しい黒人たちの中に入り彼らの状況を改善しようと努力しました。父と別れた後、白人の母、祖父母に育てられたオバマにとって黒人たちの中で暮らすことは初めての経験でした。
 オバマは最初からうまく住民をまとめることはできたでしょうか。実は最初は全然うまくいきませんでした。多くの人々は、今、目先に自分の仕事があるかどうかを心配するだけでした。そんな人々に町全体を良くしようと呼びかけてもうまくいきません。どんなに有能な人でも最初からうまくいくとは限りません。
 町には職の無い人が溢れ、住宅はほとんど補修されることもなく、犯罪が横行し、コミュニティは崩壊寸前でした。どうすればよいのか。オバマは何をしたのか。
 オバマはできるだけ多くの人々の話を聞くことから始めました。疲れ切った人々の心を動かす何かをつかみ取ろうとして。オバマはただひたすら人々の話を聞きました。
 それでもまだうまくいきませんでした。集会を開いても全然話を聞いてくれる人が集まりません。オーガナイザーたちはやる気を失い、もう辞めると言う者もいました。そんな時、オバマはどうしたでしょう。
 オバマは熱く語りました。共に協力しあって目標を達成することを。もう一度やってみようと呼びかけました。オバマの熱意と言葉でオーガナイザーたちは再びやる気を取り戻しました。
 愚痴や不満は誰でも簡単に言えます。しかし、それでは前に進むことはできません。愚痴や不満を分かち合っても意味がないのです。愚痴や不満の代わりにオバマは仲間たちに勇気を与えました。オバマが優れているのは諦めを勇気に変える力です。
 そして、オバマは一つの事実を発見します。行政の不備です。職業訓練センターが必要なのに、この崩壊したコミュニティにはなかったのです。オバマは、職業訓練センターを作ることを行政に働きかけるという明確な目標を見出しました
 オバマは集会を開き、人々に目標を伝え協力を求めました。目標は人々に希望を生みました。職業訓練センターを作るという目標は多くの人々の努力により達成されました。
 職業訓練センターができたことで人々は変わりました。変わったのは人々の心です。やればできるのだという希望を持つ勇気を人々は取り戻しました。
 政治に見放されていた人々は、希望を失わずに声をあげれば政治を変えることができることに気がつきました。オバマは、まず自分たちが変われば政治を変えることができるという信念を学びました。
 諦めを勇気に変え、人々の心を動かす目標を見出すことがオバマのカリスマの秘訣です。

人々の心を代弁すること、そして救世主に

We Are One People! Keynote Address To The Democratic National Convention
民主党大会基調演説「私たちは一つの国民」

We are one people, all of us pledging allegiance to the stars and stripes, all of us defending the United States of America.

「私たちは一つの国民です。私たちはみな星条旗に忠誠を誓い、アメリカ合衆国を守っているのです」

I stand here today, grateful for diversity of my heritage, aware that my parents’ dreams live on in my two precious daughters.

「私は今ここにいます。受け継いだ多様なもののおかげで。そして感じます、私の両親の夢が二人の愛娘の中に息づいているのを」

I stand here knowing that my story is part of the larger American story, that I owe a debt to all of those who came before me, and that, in no other country on Earth, is my story even possible.

「私はここにいます。私の物語が大きなアメリカの物語の一部であることを知って。そして、私に先立つすべての人々に負うべきものがあり、私の物語が実現できるのは地球上でまさに他ならぬアメリカという国においてのみであることを知っています」

There’s not a black America and white America and Latino America and Asian America―there is the United States of America. In the end, that is

「黒人のアメリカ、白人のアメリカ、ヒスパニック系のアメリカ、アジア系のアメリカなどありはしない。あるのはただアメリカ合衆国なのだ」

 この「私たちは一つの国民」演説は、2004年7月28日の民主党大会でオバマが行った演説です。オバマはこの演説によって一躍ヒーローとなりました。
 オバマは家族の物語を通じて、アメリカ人が抱く夢を語っています。そして、オバマは自分の物語を通じて、アメリカン・ドリームが現実になることを、夢を取り戻すことを訴えかけています。
 さらにオバマは出会った人々の物語も巧みに演説に織り込んでいます。工場が海外に移転して職を失った労働者の物語。子供の病気の治療のために月4500ドルものお金を捻出しなければならず途方に暮れる親の物語。優秀な成績をおさめながら大学に進学するお金がない学生の物語。
 たくさんの物語は、聴衆にとって何かしら思い当たる物語があるはずです。まるで自分のことのように。実はまるで自分のことのように感じることがとても重要なことです。
 アメリカの個人主義の行き過ぎが他人への無関心の温床となっています。
 個人主義は競争を生みます。それが公正な競争であれば良い結果を生みます。でも初めから大きな差がついていればどうでしょうか? 競争を初めから完全にあきらめてしまう人もたくさん出るでしょう。多くの人が誇りを失ってしまうかもしれません。
 競争を公正に行うためには機会の平等が必要です。オバマは子供たちがより良い未来を自力で築くことができるように機会の扉がすべての人々に開かれるべきだと主張しています。
 バラバラになってしまったアメリカ人は何か共通の絆を求めています。共通の絆を再び結びなおしてくれる救世主を求めています。その思いをオバマは代弁しています。多くの人々がオバマの言葉に夢と希望を見出しています。
 オバマのアメリカ再生の福音は、政府と国民だけなく、国民どうしで結ばれる新たなる契約です。オバマの多様性は人々を再び結び付ける要なのです。
 オバマは与えられた大舞台を十分に活かしました。なぜそれが可能だったのか。それはオバマが漠然とした人々の不安を読み取って言葉にしたからです。自分の思いを語るだけでは駄目です。人々が待ち望む言葉を、物語を語らなければなりません。どんなに強い信念であろうとも、どんなに強い言葉であろうとも、それが人々の心の奥底に眠る何かと合致しなければ意味がありません。
 オバマのカリスマの秘訣は、人々の心を代弁することに、そして人々に夢と希望を与える救世主というイメージを作ることに成功したことにあります。
ジョージ・ワシントン大統領歴代アメリカ合衆国大統領研究