「話す場所」選びは、イコール戦場選び。

社員に向かって何かを伝えるときに最も気にしなければならないのは、会場のセッティングです。最低限必要なのは全員の顔が見えること。スピーカーから見えるということは、その反対にスピーカーは全員から見られているということになります。また、よほど特殊な構造でない限り、社員同士もお互いの顔が見えるということでもあります。
 伝えたいことをストレートに伝えようとするのに顔が見えない相手には、非常に伝わりにくいからです。実際に顔が見えない場所、例えば柱の影に隠れて聞いている社員には伝わっている気がしません。学校の教室でも講演会の会場でも決まって熱心に聴こうとする人は一番前の席に座り、そうでない人は一番後ろの端の方に座ろうとすることからもわかります。
 次に会場の広さです。場所が広すぎると熱気が伝わりません。広々した会場にわずかな人数が集まっても、ガランとした感じが緊張感を失くしてしまいます。逆に狭すぎると人疲れがして、一種のストレス状態になり集中力が保ちにくくなってしまいます。極端なことを言えば、人気ロックミュージシャンのライブ会場にファンが詰め掛けたような過密な状態を想像すれば、「話す場所」として相応しくないことがわかります。
 照明は適度な明るさが必要になります。オフィスやホテルなどの一般的な設備であれば、明るさを最大にしても明るすぎるということはほぼないので、特に注意が必要なのは暗すぎることです。暗すぎると眠気を誘い、聴き手の注意を引きつけまた、それを維持するには負担になってしまいます。プロジェクターを使ってプレゼンテーションをする場合でも、最近の機器はさほど照明を暗くしなくても、見やすいように設計されていますから、スクリーンの周辺だけを若干だけ照明を落とし、聴き手のゾーンは明るいままにできるような設備があると便利です。
 会場の選定そのものはシュチュエーションによって使い分けるべきでしょう。よく言われるように、社員を褒める場合には全員の前で、叱る場合には個室に呼び出して1対1で伝えるといったことと共通した考えです。前者のような場合なら、全社員参加の会議や朝礼などがいいでしょう。また、表彰式といったフォーマルな形式をとるとさらに特別な感じが演出できますので、奮発してパーティーにしてしまうのも効果的です。そこまでの予算はないからオフィスで済ませようという場合でも、テーブルにクロスを敷いたり、風船や色画用紙を使って装飾をしたりすると華やいだ雰囲気を演出することができます。
 大企業での勤務経験があればお分かりになると思うのですが、せっかく伝わるように場を設定しても、あまりに参加する人数が多いとどうしてもスピーカーの熱気が届きにくくなってしまいます。会議室に30人が集まるという状況と大きなホールに3000人が集まる、あるいは、もっと人数が多くなると一箇所に集まることができずに別な会場で映像を見るだけということになってしまいます。大事な内容であればあるほど、本来は直接一人ひとりに語りかけ、性格にまた情熱的に伝えて行きたいもの。できるだけ人数を絞って何度も実施したり、散らばっている拠点を行脚したりするなど、大人数に伝えるには工夫が必要です。
 
 オバマは実にさまざまな機会に演説しています。
数百人規模の地方の集会から数万人規模の全国党大会まで人数といい場所といい千差万別です。
 まず演説は誰に招待されるかが問題です。地方の集会で話す機会の他にも、女性の社会進出を推進する団体やマイノリティの権利を擁護する団体など、いろいろな団体から招待が届きます。
 招待を受けたらその団体の主義・主張をしっかり見極める必要があります。もし演説の中でその団体の主義・主張に外れることを言ってしまうと支持を失いかねません。
 さらにどの州のどの町で演説をするかも注意しなければなりません。ほとんど白人しかいない町もありますし、黒人やヒスパニック系が圧倒的に多い町もあります。また所得が高い層が集まっている町もあれば、所得が低い層が集まっている町もあります。ホワイトカラーが多い町もあればブルーカラーが多い町もあります。それぞれの町の特色をつかむ必要があります。
 ヒスパニック系が多い町で移民の保護について語るのは効果がありますが、逆にヒスパニック系が少ない中部の町で移民の保護について語っても効果はほとんどないでしょう。
 どのような話題を選べば最大限の効果がのぞめるのかは、演説を行う町の特色や聴衆の性質を調べれば自ずと決まります。
 人数が少ない場合、オバマはまるで身近な人に話すような気さくな感じで話します。聴衆はオバマに親密感を覚えます。物理的な距離が近ければ近いほど当然、直接熱気は伝わりやすくなります。
 人数が多い場合は、聴衆が一度沸けば、その熱気は凄まじいエネルギーになります。しかし、人数が少ない場合と違って、人数が多い場合はそれだけ雰囲気を盛り上げるのはなかなか大変です。物理的な距離が遠くなり熱気を直接伝えにくくなります。
 そのため聴衆がコールする機会をもうけたり、誰にでも分かる山場を作ったりしてできるだけ多くの聴衆が共感できるようにします。話題もできるだけ多くの人々が共感できるものを選ばなければなりません。「分断されているアメリカを一つにする」というオバマのテーマは多くの人々が共感できるテーマでしょう。
 こうした工夫をすると、聴衆の間から熱気が生まれます。そうすると他の聴衆にも熱気が伝わっていき、最後には聴衆すべてに熱気が伝わります。
 焚き火をする時にいきなり太い薪は燃えません。太い薪を燃やすためには新聞紙を燃やしたり、細い枝を燃やしたりしてあたためる工夫が必要です。それと同じで大勢の聴衆に熱気を伝えるにはそれなりの工夫が必要なのです。
 
ビジネスマンとしての“格”を左右する、「第一印象や登場感」。

 書店サイトを検索すると、出会ってから数秒で人を判断してしまうというような心理学的な本が多数出版されており、第一印象の見た目の重要性はかなり認知されているようです。実際、私も第一印象には気を遣いますし、人を見るときもついつい「はじめまして」と言ってからの数秒間で判断してしまいがちです。
 男性の場合、身につけるもので見られる三大ポイントは靴、鞄、時計だと言われていますが、確かに高額な商品を販売しているセールスマンが、磨り減った靴、汚れた鞄、壊れたような時計で登場しては売れるものも売れなくなってしまいます。
 やり過ぎるとかえって品がなくなりますので、必ずしも高級ブランド品が良いとは思いませんが、最低限清潔感のある身だしなみは心がけたいものです。靴や鞄は簡単な手入れでキレイになりますし、長持ちもしますので、出かける前のほんの数分の差が実は大きな差につながっているのです。
 また、身に付けるもの以外では爪、ヒゲ、髪、口臭などがありますが、具体的にどのようにすればいいかはノウハウ本で学んでいただくとして、スーツの色やネクタイの柄もTPOに合わせたチョイスが原則ということです。
 いつも颯爽としていて、この人のようになりたいなと思う人は、汚れてしまったときに備えてシャツやネクタイの予備をオフィスに置いてあったり、食事の後には歯を磨くなどの事前の準備ができていたり、ちょっとした配慮ができている人です。そういった人は自分が相手からどう見られているかを客観的に判断して、対処ができる準備をしているということになるでしょう。
 プレゼンの達人と呼ばれているような人で、相手に合わせて服装ばかりか、行動まで気配りができている人がいます。つまり、相手のオフィスの玄関先まで車で行くか、それとも少し手前に車を置いて歩いていくか、地位のある人と話したがっている相手には前者でしょうし、生意気な人とは話したくないという相手なら後者にするわけです。情報収集能力も高くなければいけませんが、相手をよく知り自分を演出するということもビジネスマンの大切な要素なのです。
 思わぬところで恥をかいたエピソードをご紹介します。ある講演会の講師を頼まれた男性が、質のいいダークスーツを着て自信たっぷりに話していました。ところが、本来一番反応がよく、メモを取りながらしっかり聴くようなタイプが多い、一番前の中央に座っている女性の反応が非常に悪いことに気がつきました。何か間違ったことでも言ってしまったかもしれない、一体どうしたことだろうと講演の内容どころではなくなってしまったそうです。講演が終わり、アンケートを読んでみるとその女性のコメントには次のように書いてありました。「講師の方の靴下が気になって講演に集中できませんでした」。その男性講師はこともあろうに、その日に限って白い靴下を履いていたのでした。細かな部分でも、いつも誰かに見られていることを忘れてはいけないと男性は語っていました。

 大統領になろうと志す人間にとってはもちろん服装も大事です。それはイメージを左右するからです。大統領の定番と言えばやはりダークスーツです。しかし、いつもダークスーツで通すことはできません。フォーマルはフォーマルで、インフォーマルはインフォーマルで使い分ける必要があります。
 人々と触れ合う機会が多い時にフォーマルな服装ばかりでのぞむのはかえって逆効果です。近寄り難さを感じさせてしまいます。しかし、それでも人前には変わりありませんから完全にラフなスタイルでもいけません。
 オバマは、ここぞという時の演説はダークスーツにネクタイを締めてしっかり決めていますが、人々と直接触れ合う機会が多い時は、ワイシャツにノーネクタイが多いようです。オバマは場に応じた切り替えをしています。
 さらにオバマの魅力を引き立てているのは体型です。正確な数値は分かりませんが、オバマの身長は190センチ近くあるようです。ケネディは身長184cmでしたからケネディより少し高いようです。オバマは一日に4.8キロ走り、日曜日には断食していたこともあるそうです。アメリカでは体型を標準に保つことも自己管理の一環とされるので体型も重要なポイントです。

競合する企画に対して自分の企画や提案のメリットをアピールするには?

 どちらがよりみんなのためになる政策を考えているのか、大統領候補は聴衆にアピールしなければなりません。2008年の民主党予備選挙で焦点になった政策は、北米自由協定と国民皆保険についてです。オバマとヒラリー、両者の政策は根本的な違いはありません。
 そこでどのように自分の政策のメリットを見せるのかが重要になります。先手を切ったのはヒラリーです。「恥を知りなさい、バラク・オバマ」、そう言ってヒラリーは、攻撃色である赤のスーツに身を包み、オバマ陣営が発行した冊子を手にしてオバマを激しく糾弾しました。国民皆保険と北米自由貿易協定に対するヒラリーの立場をオバマが歪めて人々に伝えていると非難したのです。
 オバマはその攻撃を受け流しながら、「私の保健医療プランとクリントン上院議員のプランには違いがあります。ヒラリーは、政府があなたに医療保険に加入するように求め、もし加入しないならあなたの賃金から何とかして保険料を搾り取ろうとしています」とヒラリーのプランの弱点を攻撃しました。
 弱点を攻撃するにしてもきちんと狙いを定める必要があります。弱点は一つではないはずですが、聴衆が最も関心を抱く弱点を突くほうが効果をあげることができます。自分の財布が痛むかもしれないと言われて無関心な聴衆がいるでしょうか。オバマはヒラリーのプランをよく研究し、聴衆が何を重視するのか考えた上で自分のプランとの違いをうきぼりにしているのです。
 国民皆保険に加えて北米自由協定が議題にあがっているのは、自由貿易により多くの人々が海外に仕事を奪われることに不安を抱いているからです。ある労働者は、「国民皆保険をうまくやってくれて、仕事が中国に流れてしまうのを止めてくれる人なら誰にでも投票するよ」と語っています。
 オバマは、「昨日、ヒラリーは、北米自由貿易協定はクリントンではなくブッシュ元大統領が『交渉した』協定であると言っていた。ではここで明らかにしよう。北米自由貿易協定を通過させたのはクリントンだ。ヒラリーは、彼女の著書の中で北米自由貿易協定を『クリントン大統領の業績』と『立法における勝利』の一つだと呼んでいる」とヒラリーを非難しました。
 相手の言葉を借りて弱点を突くのは確実な手法です。相手は自分自身の言葉に反論することはできないからです。常に相手の言動に注意し、記憶に留めておかなければこうした手法を採ることはできません。

「自分の企画や提案を通す」ときの、カリスマ感・圧倒感の漂わせ方。

 何事を身につけるにしても、できている人のやり方をよく観察して、その通りやってみる、真似てみるのが早く身につける方法です。カリスマ感や圧倒感を漂わせる人は、自分に自信のある人です。自信がある人の立ち振る舞いをよく観察してみると面白いことがわかります。
 自信のある人は、どっしりと構えて、落ち着きがあり表情にもゆとりがあります。スポーツを観戦すると、それがよくわかります。例えば、ボクシングや空手などの一対一で戦う格闘技では、相対したときに実力差が明らかな場合、当人同士には肌感覚でそれがわかるようですが、観客席からでもそれを見分ける方法があります。実力の劣る選手のほとんどが絶え間なく動き回ったり、奇声を発しているものです。どこかに攻め入る隙がないか、一瞬でも怯まないかと、勝負にならない戦いだと感じていながらも、なんとか勝負に持ち込む機会を窺っているわけです。
一方で実力の勝る選手は、いつでも倒せる自信がありますから、じっくりと攻撃のタイミングが来ることを待っています。慌てずに自分のペースに持ち込めば、勝利が確実なものになることがわかっているからです。
古来から、「目は口ほどにものを言う」と言われますが、ビジネスシーンでも同じことが言えます。売り込みに来たセールスマンを観察すると、自信があるセールスマンは身体だけではなく、目もキョロキョロと動いたりはしません。会議室で、顧客である社長にむかって自分の企画をプレゼンテーションする場面であれば、社長の正面に座り、時折軽く微笑みながら相手の目を見つめ、まずしっかりと社長の話を聴き、つぎに穏やかに話し始めるのが定石です。実に堂々としてかつ、ゆとりを感じさせるものです。
話す声はやや低く、スピードはゆっくりとしていて決して先を急ぐ様子がありません。
これは急いで売り込む必要がないという、自信があるからできることでもあります。さらに、適度な「間」があり聴きやすさと相手に考えたり、話を整理させたりする余裕を与えることになります。子供の頃を思い出すと、母親が読み聞かせてくれた物語に近い感覚かもしれません。それがスピーチであれ、朗読であれ心地の良い声には、一定の範囲があるように思います。それを詳細に分析をすることは、またの機会にしますが、私は「間」の取りかたや、抑揚のつけかた、物語の展開のさせかたなどの参考に古典落語をよく聴いてエッセンスを真似てみるようにしています。もちろん、笑いの学びにもなります。
 どんなに素晴らしい企画や提案でも相手に伝わらなければ意味がありません。この人は何か持っている、話を聞いてみようと思わせることが、まず必要なのです。なぜなら、聴いてもらえなければ、企画や提案の内容を正しく判断してもらえないからです。相手が聞く姿勢をとるには、内容以前にその人の印象や雰囲気に影響されます。つまり、カリスマ感、圧倒感を醸し出せることが武器になるわけです。ですから、詳細にすべてを話し切るのは受け入れてもらった後で構わないのです。最初から微にいり細にわたり説明する必要はありません。
 もうひとつのポイントは表現力です。オバマは国民皆保険についてのスピーチで、自分のプランこそコストを安くできるというメリットがあるのだと繰り返し強調しています。さまざまなプランの中からどれが総合的に良いのか判断できる人は専門家でもなければそう多くないはずです。だからこそ詳細は省いてメリットを強調することが大事になってきます。この重要なポイントをわかりやすく、力強く、そして比喩やストーリーを交えながら、話の角度を変えて繰り返し強調するための表現力がカリスマ感、圧倒感を作り上げていくのです。そして、そのメリットが多くの人々にとって良い結果をもたらすと確信することが重要です。

「クレームをつけられた」ときは、切り返す最大のチャンスと思え。

 クレームは誰でも嫌なものです。特に最近は無理難題を持ちかけるクレーマーも増え頭を悩ましている企業も多いようです。インターネットで公的機関の消費者からのクレーム件数を検索してみると顕在化しているだけでも相当数のクレームが寄せられている事実がわかります。また、消費者保護が前提ではあるけれど、年々その内容はあまりにも過剰な反応ではないかというクレームが増えてきていることも実際に起こっているようです。
 しかし、それでもクレームは歓迎しなければなりません。その理由は二つあります。確かに、理不尽な要求が増えているとはいえ、大半は企業側のミスが原因でお客様の仰るとおり、お怒りもごもっとも、といった内容ですので一つひとつ丁寧に対処して、解決していくことはたいへん根気がいる仕事です。しかし、実はクレームよりも恐ろしいものがあるのです。一般にクレームの発生率は全体の1%から3%程度といわれており、その他のネガティブな意見は表面化しないまま、利用者の心の中に埋もれてしまっているのです。これがもっとも怖いサイレントクレームです。
 顕在化したクレームは、何らかの解決方法があるものですが、潜在的なサイレントクレームは対処のしようがありません。ひどい思いをした利用者は、その思いを持ったまま、もう二度とあの企業は利用しないと決めて、黙って離れていってしまいます。つまり、企業の知らないところで顧客離れが起き、それを食い止めることもできないまま気が付いた頃には既に手遅れということがあり得るのです。ビジネスに携わる人ならこれほど恐ろしいことはありません。そのうえ、クレームになるようなネガティブな情報は、瞬く間に広がっていきます。あの製品は使いやすい、あの会社のサービスは快適だ、といったポジティブな情報が口コミとして伝わるのがジワジワと広がっていくのに対して、数十倍は早く伝わっていくものです。どういうわけか、人の噂とはそういう性質があるようです。しかも時として事実よりもひどい情報として、もうこうなると噂というよりデマなのですが、それでも時間の経過とともに口コミでもインターネットでもより広範囲に情報が広がっていってしまいます。
 発生率が1%とすると、一人のクレームの裏側には100人のクレームが潜んでいることになります。さらに、その100人が発生源となるわけですから、一刻も早い対処が重要になります。クレームを歓迎する理由の一つはそこにあるのです。クレームを顕在化してもらったおかげで、クレームの存在を認識できるのです。これはとても有益な情報だといえます。的確な対処をすれば、知らないうちに加速度的に広がっていってしまう可能性のあるネガティブな情報を食い止めるチャンスをもらえたのです。企業側は最初にクレームをつけた利用者に対する正しい認識として、重箱の隅をつつくタイプの困った人から、感謝してもしきれないありがたい人だと、認識を改めなくてはならないかも知れません。
 そして、二つ目としてクレームは興味、関心の裏返しでもあるということです。人の性質として、興味がないものは見ない、聞かない、話さないというところがあります。先ほどからのサイレントクレーマーのように失望してしまった利用者は黙って去ってきますが、
少なくとも話してくれたということは興味がある、正確には興味があった、ということにもなるのです。そう考えると、クレームは改善の宝庫です。利用者から直接与えられた課題は、どんなリサーチ結果よりもリアルで強烈なものです。
 クレームは課題である、課題を解決すれば再度受け入れられる可能性があると真正面から改善に取り組むことが重要です。なぜなら、起きてしまったクレームは取り返しの付かないことです。利用者もそれがわかっていますから、もっとも注目しているのは対処の仕方なのです。起きてしまった問題を補償することで解決とせず、今後は同じ問題が起きないようにどのような、対策を講じるのかが解決のゴールなのです。対策を具体的に示し、できるだけ早く実際に運用を行うことが再度受け入れられる可能性を実現する唯一の方法なのです。

 ある集会で三人の黒人男性が「バラク・オバマ、あなたは黒人社会のために何をしてくれるのか」という幕を掲げ何かを叫び始めました。一瞬、オバマはそれに気が付いた様子でしたがそのまま演説を続けました。一方、黒人男性の抗議に気が付いた会場の聴衆はブーイングをした後に「きっと私たちはできる(Yes, we can)」を連呼してその三人の男性を圧倒しようとしました。
 オバマは演説を中断して暫くそれを見ていました。オバマは事態をどう収拾すればよいのか考えていたのでしょう。三人の黒人男性の主張はまさにクレームです。この三人の黒人の背後には何千人、何万人もの有権者が控えているのです。クレームをどう処理するかで何千人、何万人もの有権者の支持を失うかもしれないのです。政治家にはそういう緊張感が常に求められます。
 まずオバマは聴衆を鎮めました。そして、「よしよし青年たち、分かったから後で質問できるようにするよ」と声をかけました。会場は拍手喝采の渦に包まれました。この顛末はオバマが話を聞いてくれる人だというイメージを高めました。オバマは演説の中でも人々の声を聞くことが大事だと語っています。オバマがクレームを聞くという姿勢を示したことが成功の秘訣です。

「強力な反対勢力」が現れたときは、自分の存在感を増すチャンス。

 市場を独占できれば楽なビジネスが展開できるのですが、ビジネスには競合他社がいるのが常です。しかし、競合するライバルが強力であればあるほど自社のレベルを上げる原動力にもなります。
 自然界から、学べることがあります。天敵がいるほとんどの生物は、まず天敵から身を守り生存することに します。それは種を保存するためであり、そのために天敵に対抗する進化を遂げます。あるものは戦うための武器を持ち、あるものは発見から逃れるためにより精巧な擬態を身につけます。存在の危機にさらされることが、脅威であるがゆえに生命力を鍛え、進化のきっかけになることが自然界からわかるのです。
 ビジネスの世界に置き換えれば、競合する企業と戦うためにはその相手と明らかに違う自分の特徴を打ち出すこと、すなわち差別化であり、生存競争に勝つためになくてはならない重要な戦略です。しかし、差別化は単にライバルと正反対の特徴を打ち出せればいいというわけではありません。例えば経験に対して若さ、商品力に対して価格力を持つというだけでなく、自分の強さをよく把握できていることが必要になってきます。つまり、相手に合わせた対抗策であることに加えて、自分自身の強い部分を活かした武器があれば、先手を打って戦うことができるに違いありません。

 オバマはヒラリーという強力なライバルのおかげで存在感が増しました。民主党の予備選挙は、史上初の黒人大統領か史上初の女性大統領かという話題で大いに盛り上がりました。その要因のひとつは、知名度の低い若き黒人男性と知名度抜群の白人女性という、コントラストが背景にあったのかもしれません。一般大衆から見て、非常にわかりやすい対比だったのではないでしょうか。そして、ヒラリーという強力な元ファーストレディに対抗する過程で、圧倒的不利と予想されたオバマは成長しました。オバマはヒラリーを超えるために数々の戦術を編み出さざるを得なくなり、追い込まれれば追い込まれるほど信じられないほどの
結果的にそれが功を奏し、絶好のアピールになりました。もしも、予備選挙の対抗馬がヒラリーではなく、凡庸な相手だったとしたらここまで白熱することも、世界からの注目を集めることもなかったかもしれません。オバマの若さと変革をもたらそうという情熱は経験豊富なヒラリーを相手にすることでより際立ちました。そうした意味でオバマの真の立役者はヒラリーなのです。
ビジネスマンであれば、社内の反対勢力と戦うことを経験するかもしれません。ライバルとの出世争いは古い体質の大企業だけのものではありません。営業部門であれば、数字を巡る戦いも存在することでしょうし、予算から目に見えない発言権といったものまで、勢力争いは留まるところを知らないでしょう。これをストレスと呼んで避けて通ることもできますが、上手く活用して成長の糧にすることもできるのです。よく考えてみれば、オバマとヒラリーの戦いは同じ党内の権力争いであったわけですから、オバマはヒラリーと同時にかなりのストレスとも上手く付き合ったわけです。バランスよくオバマのやり方を取り入れてみることがストレスのコントロールに役立つかもしれません。

「スキャンダル」は男につきもの。舵取り次第で英雄になれる。

 出る杭が打たれる理由は“妬み”。頭角を現し、勢いがあり、一気に力をつけて権力を手にしていく姿を目の当たりにすれば、嫉妬心を抱くのは自然な心の動きでしょう。なりたい自分となれない自分の誤差を埋めるための手段の一つが出る杭を打つことであり、もう一つは出る杭になることなのです。
 出る杭がなければ打つことができないが、自分がなりたいような憧れの人物にはそうそうなれるものではないと、もっともらしい理由で杭が出ていない状態に収めることができます。出る杭になれない自分と現実の誤差がないように思い込むには都合がいいのです。それで、精神のバランスは取れるので、出る杭になる人は少数派なのですが、それだけに妬まれやすいともいえ、だから狙われてしまうのです。
 男に仕掛けられる罠には、金銭、健康、女性の三つがあります。
 政治家の贈収賄など裏金の問題が典型的な例です。金額の多少に関係なく、正当な金銭の受け渡しではないことが証明できれば、陥れられるますので欲張らずに、受け取る理由がない金銭には手を出さないことです。私の知っている人で、興信所を使って何度も尾行された経験がある人がいます。大きな注文を取り合っていたライバル会社が何とかして、競争から蹴落とそうとして、架空の裏金の噂を立ててそれらしい、いかにも怪しい写真を撮ろうと企てたのです。しかし、何日張り込んでも、そんな場面があるはずもなく逆に尾行されていることに気が付いたそうです。ドラマの世界ではなく、実際にそこまでやる人がいくらでもいるのです。そうでなければ、興信所は商売になりません。
 次に、健康に留意しなければなりません。いくら仕事ができても、病気がちでは充分に実力を発揮できなくなってしまいます。健康を害したことで、何であれ目指していたことを志半ばで諦めるなどというのは、悔やんでも悔やみきれないのではないでしょうか。健康は金銭と違って他人に左右されることがなく、自分でコントロールできる分野です。リーダーであれば、大きな仕事をするためには健康管理も仕事です。精神的にも肉体的にもベストな状態を維持して、安定した判断がいつでもできるようにあって欲しいものです。厳しいようですが、大きな組織を動かそうとすればするほど、双肩に多くの人々の未来がかかっているのですから当然の責務なのです。
 そして、女性問題です。近年でもビル・クリントンの一件があったように、政治家でもたびたび問題が起きています。英雄色を好むとは言い、確かに歴史的にはそういった傾向にあるようですが、それは現代の倫理観とは違っていた時代の話です。色事にうつつを抜かす暇があったら仕事に邁進しなくてはなりません。結果的に、金銭、健康、女性と欲を刺激されるものだからこそ落とし穴があるわけです。しかし、妬まれもしない男に魅力があるのかと思うのだが、いかに、自らを律する心を持って「君主危うきには近づかず」を実践するのが賢明な選択です。

 大統領候補も金銭、健康、女性の三つの問題に無縁ではありません。まず身を修めることから始めなければなりません。オバマはどうでしょうか。
 金銭問題については不正利益供与疑惑が浮上しています。悪名高い不動産業者から土地売買に関して不正な便宜を得たという疑惑でした。この不動産業者は2008年6月4日に収賄やマネー・ロンダリングで有罪判決を受けています。不正な土地取引で利益を得ようとしたのではないが、そうした取引には関与すべきではなかったとオバマが釈明したのでこの件は沈静化しました。
 健康問題については、過去に麻薬を使用したことをオバマはヒラリー陣営から追及されています。しかし、それはオバマの自伝にも書いてあるのでたいして問題にはなりませんでした。その他の健康問題については無縁のようです。
 そして、女性問題についてはどうでしょうか。オバマはどうやら女性問題については無縁なようです。しかし、三番手につけていたジョン・エドワーズは予備選挙から降りた後に不倫をしていたことを認めました。これでエドワーズを副大統領に擁立する可能性は完全になくなったでしょう。もしエドワーズが勝利をおさめていたとしても隠し切れなかったかもしれません。ケネディのように女性遍歴が後に問題になった大統領もいましたが、当事は良き夫、良き父親というイメージを保つことに成功していました。スキャンダルは後々までいったい何が出てくるか予想もつきません。
 スキャンダルをうまく処理するうえで大切なのは何でしょうか。それは無理やりもみ消そうとせずに潔く認めることです。無理やりもみ消そうとして失敗した例がウォーターゲート事件です。ニクソン大統領はウォーターゲート事件で大統領辞任に追い込まれました。もともとは大統領に再選するために設立した組織のメンバーが盗聴器を仕掛けるために民主党の事務所に押し入って逮捕されたという事件でした。それがさらなる問題に発展したのはニクソンがその事件をFBIに圧力をかけてもみ消そうとしたことが発覚したからです。
 もみ消さずに潔く認めてうまくいった例もあります。グロバー・クリーブランドは、大統領選挙の際に未婚の女性に子供を産ませたというスキャンダルが浮上しました。クリーブランドは子供が我が子だと認めました。クリーブランドは、私生活は滅茶苦茶でも公的生活が潔癖な人物と私生活は潔癖でも公的生活が滅茶苦茶な人物、どちらを大統領に選ぶのかと国民に問いかけました。選挙の結果はクリーブランドの勝利でした。スキャンダルも舵取り次第なのです。
ジョージ・ワシントン大統領歴代アメリカ合衆国大統領研究