ワシントンの「桜の木」伝説の虚実
 ワシントンはアメリカ独立戦争を勝利に導いた建国の祖として存命中から衆人の尊崇を受けていた。アメリカは神に選ばれた国であるという理念の下、ワシントンをアメリカの「救世主」であり「神の子」と称賛する者も珍しくなかった。その死後も衆人の尊崇はとどまることを知らず、ワシントンにまつわる数々の伝説が生み出された。
 最も代表的な伝説は、「桜の木」伝説であろう。ワシントンが6歳の頃、父オーガスティンが大事にしていた桜を切ってしまった。オーガスティンに「庭のあそこにある小さな美しい桜の木を切ったのは誰か」と詰問された時に、ワシントンは少しもたじろぐことなく「お父さん、僕は嘘をつけません。僕が嘘をつけないことはお父さんもよく分かっていますよね。私の手斧で桜の木を切りました」と答えた。オーガスティンはワシントンを「我が息子の英雄的行為は、銀を咲かせ純金を実らせるような何千本の木にも優るものだ」と褒めたという。
 この逸話はメイスン・ウィームズによる創作だとされている。ウィームズはワシントンと同時代の人物で、1787年3月、実際にワシントンを訪問している。後にウィームズは、『ジョージ・ワシントンの生涯と記憶すべき行い』と題する80ページの小冊子を出版した。非常に人気を博したこの伝記は第7版まで改訂を加え、228ページにまで膨らんだ。その後も80版以上を重ねている。後にワシントンの伝記を書くことになるウッドロウ・ウィルソンも、子供の頃にこれを愛読していたという。

ジョージ・ワシントン大統領歴代アメリカ合衆国大統領研究