大統領だってぶち切れることはある!


  第33代大統領ハリー・S・トルーマンにはマーガレットという娘がいた。他に子供がおらずたった1人の愛娘なのでトルーマンの親バカぶりは有名だった。そのマーガレットはプロのシンガーとして活躍していた。1950年12月5日にマーガレットは、ワシントンのコンスティテューション・ホールでその歌声を披露した。それをワシントン・ポスト紙は「プロ並みの仕上がりで歌うことができていない。音楽の何たるかがほとんど伝わっていない」と酷評した。トルーマン大統領は記事を読んで激怒し、記事を書いたポール・ヒュームに早速手紙を送った。
 「君はまるで成功したこともない欲求不満の男のようだ。腐りきった仕事に就いている腐りきった奴だ。お目にかかったことはないが、もしお目にかかる機会があれば、君は新しい鼻と[あざを消す冷却用の]生の牛肉を準備しておいたほうがいいぞ」
 トルーマン自身もピアノの練習を日課にし、コンサートに度々参加するほどピアノが上手に弾けたので音楽の素養はあった。親の欲目で娘の声はあまり下手には思えなかったのだろうか。
 ただこの手紙はまだ大人しい内容で、実はトルーマンはもっと酷い内容を書いていたらしい。手紙を送った後にトルーマン大統領は、「読んでもらいたいものがある」と秘書官を呼び出した。トルーマンの手紙を読んだ秘書官は「送るつもりはありませんよね」と恐る恐る聞いた。「君はそう言うと思ったよ。でももう送ってしまったよ。お気に召さないかな」とトルーマンは答えた。秘書官が口ごもると、トルーマンは、さらに「ちょっと待ちなさい。他のものも見せよう」と言って引き出しから最初に書いた文案を取り出した。それを読んだ秘書官は、「送ってしまった手紙のほうがまだましなので、この文案を送らなかっただけよしとするべきでしょう」とコメントした。
 この当時、トルーマン大統領の身辺は悪いことが続いていた。勝利は確実だと思っていた朝鮮戦争は中国義勇軍の参戦により泥沼化し、高校以来の親友で大統領補佐官を務めていたチャーリー・ロスが心臓発作で亡くなった直後であった。多事多端であった大統領が怒りを爆発させても無理はなかったのではなかろうか。 記事を書いたヒュームはとんだとばっちりを受けたものだ。

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