山道で村娘と立ち話
「今ここに陛下がおいでになるから、あんたらここへ立っててくれ」  

 カメラマンが、息を切らせて山道を登ってきて今井スミ子さんと宮島トミさんの二人に天皇陛下のご来臨を告げた。幼馴染の二人は、朝から誘い合わせて茸狩りに山に入り、もう竹かごにいっぱい茸をとってしまったので今から山を降りようとしているところだった。ちょうど二人で「今ごろ、陛下は何、ごちそう食べんだろう」、「おはぎでも食べてんのかねー」と言い合っていた矢先のことであった。二人は何とか隠れようと考えたけれども山道の片側は山、もう一方は崖で避けようがない。せめて失礼にならないようにと笠は取ったけれども蓑を脱ぐ暇はなかった。天皇陛下を迎える時は笠や蓑などを脱ぐように決められていたからである。他の多くの場所でも雨天でも傘を使わなかった人が多かったくらいである。

 この日は休養日で、昭和天皇は御宿泊先の飯塚邸の裏口からこっそり抜け出されお忍びで山道を散策されていた。新聞記者やカメラマンがそれに気が付いて追ってきたのである。  

 昭和天皇は二人の姿をおみとめになると、気さくな様子で近付かれ、宮島さんの竹かごの中の茸をお手にとり「これなあに」と二人に質問された。二人が、「ズボタケ」と「アワタケ」と答えると、昭和天皇は、満足気に「いっぱい採ったね、気をつけてね」とおっしゃって立ち去られたという。  二人は高いところから昭和天皇を見下ろすことになってしまい非常に恐縮したという。

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