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二大政党制度

アメリカ大統領選挙完全マニュアル


予備選挙

予備選挙とは何か

 まずアメリカ大統領選挙は予備選挙と本選に分かれる。予備選挙制度は、政党が立てる候補者を誰にするか決めるための仕組みである。現代のアメリカの政治制度では、大統領になろうとすれば予備選挙を通じて共和党か民主党、どちらかの「候補指名」を獲得する必要がある。その後、ようやく大統領選挙の本番、つまり本選挙に進むことができる。

代議員とはどのような存在か

 2016年の予備選挙ではしばしば「代議員」という言葉がニュースで登場したが、いったい代議員とはどんな存在なのか。全国党大会に出席し、候補指名で票を投ずる人が代議員である。政党が立てる候補者を誰にするか決めるために予備選挙では、この代議員を選出している。
 ただどのように代議員を選出するかは、民主党と共和党でも違い、さらに各州の州支部でも異なる。予備選挙を行わず党員集会(コーカス)で代議員を決定する場合もある。したがって、ここではごく民主党の一般的なケースを説明する。
 民主党の代議員は大きく特別代議員と一般代議員とに分かれる。特別代議員は全体の二割である。州知事や連邦議員といった党の有力者から構成されている。自らの判断でどの候補に票を投じるのか決めることができる。これは党の有力者に配慮した仕組みと言える。
 予備選挙の焦点になるのは残り八割を占める一般代議員である。一般代議員は、地方の有力者や一般党員から構成されている。一般代議員は、特別代議員と違って自らの判断ではなく一般投票の結果に従って票を投じなければならない。一般投票が行われる前に誰を支持するのか予め誓約しなければならないと規定されている。 
 また一部の州や地区は党員集会という方式で代議員を選出している。これは古くからある方式で、現在の予備選挙が導入されるまで採用されていた方式である。まずは地区ごとに郡集会に出席する代表を選ぶ。さらに郡集会で州党大会に出席する代表を選ぶ。最後に州党大会で、全国党大会に出席して大統領候補指名を行う代議員を決定する。党員集会は誰が大統領候補にふさわしいか党員の討論を通じて吟味することができるが、時間がかかるうえに党の有力者の影響を受けやすいという欠点がある。
 このように各州で一般代議員を一月から六月にわたって順次決定していく。だから大統領候補の公認を目指す者達は全米を飛び回って厳しい戦いを続けなければならない。一般代議員はただ形式的に票を投じるだけなので実質的には一般党員による直接選挙である。

なぜ予備選挙があるのか

 なぜこのような一見して面倒に思える予備選挙があるのか。それは民意を反映させて大統領候補を確実に選ぶためである。
 現在のような予備選挙がまだ導入されていなかった頃、全国党大会で大統領候補がなかなか決まらずに紛糾することがしばしばあった。もともと立候補するつもりのない人が担ぎ出されたり、投票を100回以上も繰り返しても決まらなかったりすることもあった。また政治ボスたちの暗躍で指導力が欠如した候補が選ばれる弊害も問題になっていた。
 予備選挙にはおよそ100年の歴史があるが、それが、党の有力者の独占的支配を脱して、ようやく民意を反映したものになったのは1970年代以降である。民意の反映とは、候補選出に有力者だけではなく、より多くの党員の意見を反映させるということである。しかし、全国党大会に数千万人の一般党員をすべて集めて誰を候補に選出するか相談するわけにはいかない。そのため党員を代表して全国党大会に出席し、票を投ずる人を決めることにした。

参考:予備選挙の歴史

 予備選挙制度は、1903年にウィスコンシン州で初めて制度化された。その後、徐々に予備選挙制度を採用する州が増え、1955年にはすべての州がこの制度を取り入れるまでになった。
 大統領選で予備選挙が初めて注目を浴びたのは1912年の大統領選である。1912年の大統領選で、共和党は誰を大統領候補に指名するか紛糾した。なにしろ現職のウィリアム・タフト大統領に対抗して元大統領セオドア・ルーズベルトが立候補したからである。四年前の大統領選では、ルーズベルト自らタフトを後継者指名し全面的に支援したのにもかかわらずである。しかし、セオドア・ルーズベルトはタフトと政策面で意見を異にするようになり、自ら立候補することにした。
 セオドア・ルーズベルトは各州で予備選挙を実施することで民衆の支持を集め、党大会で指名を獲得しようとした。十州で行われた予備選のうち九州をセオドア・ルーズベルトが制した。しかし、全国党大会では、タフトが党指導者層の支持を固めていたのでセオドア・ルーズベルトは指名を獲得することができなかった。
 結局、セオドア・ルーズベルトは第三政党から大統領選に出馬した。その結果、共和党支持者の票はルーズベルトとタフトの両氏で二分されることになり、民主党大統領候補のウッドロウ・ウィルソンが漁夫の利を得て勝利を収めた。もしルーズベルトが共和党の指名を獲得できていたら、ウィルソンの勝利は危うくなっていただろう。

参考:近年の予備選挙の動向

 2008年の民主党予備選挙は最後の最後まで稀にみる激戦であった。2004年の予備選挙と比べるとその違いがよく分かる。前回は、最後はジョン・ケリー上院議員とジョン・エドワーズ上院議員の一騎打ちになった。しかし、一騎打ちは長く続かず、三月初めにケリーの候補指名が確定した。
 指名確定後は、当時、圧倒的な支持率を誇っていた現職のジョージ・W・ブッシュ大統領にいかに対抗するかが焦点になった。一時期は、共和党のジョン・マケイン上院議員を副大統領候補にするという奇策も飛び出したが、結局、予備選挙で第二位となったエドワーズが副大統領候補となった。本選でケリーは現職のジョージ・W・ブッシュに敗れた。
 2004年11月にケリー敗北後に行われた世論調査では、2008年の民主党大統領候補としてヒラリー・クリントン上院議員が最も可能性が高いという結果が出た。ヒラリー・クリントンは1993年にファースト・レディになって以来、長らく行動するファースト・レディとして全米の注目を浴びていたので特に驚くべきことではない。
 対するバラク・オバマ上院議員は、2004年7月の党大会で一躍全米の注目を浴びるまでは無名の存在であった。2004年に民主党が大統領選でも議会選挙でも敗北を喫する中、オバマ上院議員は有望議員として初当選した。その当時から既に「将来の黒人初の大統領」という呼び声があった。ただ多くの人は、その「将来」というのはまだ遠い先だと感じていたが、時代の流れは多くの人々が思うよりも急激であった。
 2016年の予備選挙は近年稀に見る波乱ばかりであった。まず共和党は泡沫候補ですぐに消えると思われていたドナルド・トランプが共和党大統領候補の座を確保した。その一方で早くから候補指名獲得が有望視されていたヒラリー・クリントンはバーニー・サンダース上院議員に苦戦して本選に不安を残した。予備選挙で苦戦した大統領候補は本選で敗北する確率が高くなる傾向がある。

本選挙

予備選挙から本選へ

 予備選挙に勝ち残った大統領候補はいよいよ大統領選挙本選挙に駒を進める。少数政党の候補も大統領選挙本選挙に参加しているが、実質的には民主党候補と共和党候補の一騎打ちである。
 本選挙は11月の第一月曜日の次の火曜日に行われると決まっている。大統領選挙予備選挙と同じく大統領選挙本選挙も我々日本人にとっては馴染みのない制度だと思うのでここで紹介しておく。

アメリカ国民は直接大統領を選んでいない

 実はアメリカ国民は大統領を直接選んでいるのではなく、選挙人を選ぶことで間接的に大統領を選んでいる。選挙人を選ぶといっても選挙人とは具体的にどのような人なのか。
 選挙人の定員は州ごとに決まっている。その州の上院議員の数と下院議員の数の合計が選挙人の定員になる。例えば最も定員が多いカリフォルニア州では、下院議員が53名、上院議員が2名で選挙人の定員は合計55名である。
 各政党は予め各州の定員に応じて選挙人の名簿を作成する。名簿に掲載される選挙人を一括して選挙人団と呼ぶ。有権者がオバマに投票しようとすれば、オバマを大統領候補に指名している選挙人団、つまり民主党の選挙人団に投票すればよい。
 一般投票の結果、最も多くの票を得た候補がその州のすべての選挙人を独占する。実際の投票では選挙人の名前すら記載されず、大統領候補者の名前を直接マークするという州がほとんどである。
 選挙人の総数は、アメリカ全土で538名である。538名の内訳は、上院議員総数に対応する435名と下院議員数総数に対応する100名、そしてどこの州にも属さない首都ワシントンの3名である。そのうちの過半数、つまり270人以上の選挙人を獲得すれば晴れて大統領に選出される。
関連記事  選挙人制度とはどのような制度なのか

一般投票で票数が少ない候補が勝つこともある

 大統領選挙本選挙で勝つためには大票田で勝利することが不可欠である。勝者独占方式ですから一票でも多ければ大票田の選挙人をごっそり獲得することができる。そうなると困ったことがある。例えば選挙人の数が多い州で僅差でもよいので勝利してしまえば、残りの州で惨敗しても最終的には勝利できることになる。つまり、たとえ一般投票の票数で負けたとしても選挙人の数で上回ればよいということになる。そういう逆転は過去に何度も起きている。
 つい最近の2000年の大統領選挙でも一般投票の票数と選挙人の数の逆転が起きている。一般投票で、ジョージ・W・ブッシュは約5046万票獲得したが、アル・ゴアは約5100万票獲得している。しかし、選挙人獲得数ではブッシュが逆転し、271人の選挙人を獲得、ゴアに5票差で勝利した。 
 ブッシュの勝因は、フロリダ州を制したことである。票差は327票だったと言われている。フロリダ州の選挙人は全部で25人である。フロリダ州のおかげでブッシュは逆転できた。もしフロリダ州で負けていたらブッシュは間違いなく負けていた。このフロリダ州の一般投票の集計に関しては一時期論争となった。

一般投票から選挙人投票へ

 一般投票が終わった後、大統領選挙人は、12月の第2水曜日の後の最初の月曜日に各州都で投票する。投票の結果は密封して連邦上院議長に送付される。そして、翌年の1月6日に連邦議会で開票される。
 現在の制度では、実質的に選挙人投票は形式的なものであり、一般投票で選挙人が選ばれた時点で既にどの大統領候補が当選するかが判明する。ただ正式には選挙人投票を上院が集計して初めて大統領当選が確定する。

参考:大統領選挙はなぜ複雑な仕組みになったのか

 なぜ大統領選挙で一般投票と選挙人投票という二重の仕組みを採用しているのか。全米で有権者の票をまとめて数えて選挙結果を決めてしまえば面倒な食い違いも起きず、選挙人を指名する手間も省ける。何のために選挙人投票があるのか。
 現代のアメリカでは選挙人投票は有名無実となっているが、建国当初は選挙人投票という形式を採用することに大きな意義があった。
 日本という国はまず中央政府ができてから後に各都道府県ができた。いわゆる明治新政府による廃藩置県である。しかし、アメリカは全く逆である。まず州ができてから後に連邦政府ができた。アメリカの州は、日本の都道府県のような自治体とは全く違っていて個別の国家とでも言うべき大きな権限を持った存在である。
 全国区で選挙を行うことは各州の意向を完全に無視することになる。そうならないようにするため、各州で選挙人を選出し、各州の代表である選挙人がそれぞれ票を投じるという形式を採用した。
 また選挙人は、一般大衆に比べて大統領候補の資質を見極める見識に優れていることが期待された。それは一般大衆を煽動することにより大統領になろうとする野心家を阻止する効果があると考えられたからである。現代では各政党が、自党に貢献した人を感謝と名誉を表して選挙人に指名している。
 このように大統領選挙における選挙人投票は、アメリカならではの事情をふまえた仕組みである。現代のアメリカの事情には即していないかもしれないが、選挙人による大統領選出は憲法によって規定されている。そのため選挙人投票を廃止するためには憲法の修正が必要となる。憲法の修正は簡単なことではないので今後も形骸化したとはいえ選挙人投票は存続するだろう。

参考:大統領選挙の資金について

 大統領選挙にともなう選挙活動には莫大な資金が必要である。そうした資金はどのように拠出されているのか。基本的には大統領候補本人のポケット・マネー、もしくは政治献金によって賄われる。近年はあまりに莫大な額を要するので全額、もしくは一部が大統領選挙運動基金から支出される。
 大統領選挙運動基金は、納税者が所得税を納付する際に3ドルを大統領選挙運動基金に納付するかどうかを決めることで集められる。大統領候補は、予備選挙、全国党大会、本選挙に関する費用を受け取ることができる。
 予備選挙については合計10万ドル以上(1口250ドル以下の献金×20州以上)を集めた者に対してそれ同額が大統領選挙運動基金から支給される。
 前回の選挙で一般投票の25%以上を得た政党は、全国党大会に関連する費用として200万ドルが支給される。2012年の場合は、共和党と民主党のみである。25%未満の得票率の政党にも比率に応じて支給されるが、得票率が5%未満の政党は支給されない。
 本選挙では、2012年の選挙の場合、共和党大統領候補と民主党大統領候補はそれぞれ2,000万ドルを受け取ることができる。他の政党の大統領候補も得票率が5%以上であれば比率に応じて受け取ることができる。
 大統領選挙運動基金の受給にあたっては条件がある。まず選挙運動費用の総額が支給限度額を超えないこと。2012年の場合、民主党大統領候補と共和党大統領候補は政治献金を一切受け取ることができない。受給する場合、こうした条件を守らなければならないので、受給を辞退する場合もある。